激戦の箱根駅伝2019も終了しました。
今回から、各チームごとの総括や来季のチーム展望を選手の個人記録と共に書いていこうと思います。
まずは、熾烈な優勝争いを繰り広げた3強からお伝えしていきます。

【補足】
今回総合10位の中央学院大学の総合タイムが各区間11位の合計タイムと各区間12位の合計タイムの間だったので、選手の評価基準として各区間11位のタイムを採用しています。



【東海大学】

 総合:1位  10時間52分09秒 【復路新記録、総合新記録】

往路:6位→5位→4位→2位→2位
復路:2位→2位→1位→1位→1位

【選手個人記録】

東海_往路
東海_復路

<大会内容>

青山学院、東洋を破って見事総合優勝を果たした東海大学。
終わってみれば、前回大会の課題を見事に克服し「山を制して平地を高いレベルで無難にこなす」という隙のない内容で優勝を掴みました。

1区鬼塚はしっかり先頭集団につき8秒差で2区に繋ぎ流れを作りました。
2区は最後の年の箱根デビューで大役を担った湯澤。留学生には差を開けられたものの、青学を上回り東洋のWエースの山本とも30秒差におさめます。
3区西川は青山学院・森田に差を開けられますがしっかり区間中位以上の走りで大崩れを避け、4区館澤は東洋・相澤に差をつけられながらも区間2位の走りでチームを2位に押し上げました。このように、ライバルチームのエース投入区間で差を開けられても別の区間でしっかりフォローできていたのは大きかったです。
そして圧巻は山登りの5区西田。入念な準備が実を結び見事に山を攻略し、区間新記録に相当するタイムで区間2位。近年課題だった5区が大きな稼ぎポイントになりました。
そして復路は区間賞を連発した青山学院のレベルまではいかないまでも、抜群の安定感を発揮します。

6区中島、7区阪口はそれぞれ実力を発揮。東洋との差を確実に詰めながら後ろから猛追する青山学院との差を維持します。そして決め手となった大きなサプライズをもたらしたのは8区小松。前回の青山学院・林を思い出させる箱根デビューでの区間新記録更新の走りで東洋を抜き去り首位に立ちます。
そして9区湊谷、10区郡司も高いレベルの走りで2位に浮上した青山学院との差を維持。そのまま優勝のテープを切りました。

区間賞こそ1つですが、大きな穴もなく要所要所でライバルに差をつける走りを見せた安定感はまさに優勝チームにふさわしい内容でした。
今年取り組んだスタミナ対策が花開いたという事でしょう。

<来季に向けて>

堅実な仕事をした湯澤、湊谷は卒業するものの、軸となっている黄金世代が4年生を迎える事もあり影響は軽微でしょう。
ただ問題となるのは、来年度のチーム編成における結果と育成のバランスです。後述する青山学院が今年この問題を抱えているのですが、現状の東海大学は黄金世代に依存したチーム構成であるためこのままいくと再来年大幅なチーム力低下を招く可能性があります。
再来年のチーム目標をどう定めて黄金世代の起用数を調整するかは来季の重要課題となりそうです。
そんな中で2年の西田が山登りで結果を出したのは非常に大きな武器となります。ここを稼ぎポイントにしながら平地区間で育成にも取り組めそうです。




【青山学院大学】

 総合:2位  10時間55分50秒 【復路新記録、総合新記録】

往路:3位→8位→1位→3位→6位
復路:5位→3位→3位→3位→2位

【選手個人記録】

青山学院_往路
青山学院_復路

<大会内容>

有用の最有力候補として5連覇が濃厚とみられていましたが、蓋を開けてみれば想定外の事態が相次ぎました。
エース・森田が不調で起用区間変更、全日本で区間賞の吉田祐の欠場、リードを計算していた山登りの苦戦などが重なった事で失うリードは大きく、東海大学に優勝を明け渡す結果となりました。

1区橋詰は区間賞こそ東洋に譲りましたが、初めての箱根1区でも最後まで先頭集団の流れに乗って3位で2区に渡し仕事を果たします。
続く2区は不調の森田に代わって梶谷が担当。留学生や塩尻(順天堂)、山本(東洋)等には差を開けられたもののライバルの東海とは30秒程度の差におさえました。
そして不調で区間変更をしながらもきっちり仕事を果たした森田。やや距離を減らした3区では本来の走りを発揮し区間記録を更新。一気にチームを首位に躍り出ます。続く4区は箱根デビューだけでなく駅伝デビューの岩見。東洋はエース・相澤を投入したという事で守勢となり区間15位と苦しい内容になりましたが、こちらもエースクラスの館澤(東海)とは2分差以内におさめましたので最低限のラインには踏みとどまったと言えるのではないでしょうか。
そしてここから勝負の5区山登りでしたが、竹石はアクシデントは見られないものの中々ペースが上がらず前回の走りを再現できません。区間13位のペースで芦ノ湖に着く頃には区間新記録相当のタイムだった伊東(東海)とは3分半近い差をつけられてしまいました。
「青山学院は未だ山を攻略できず」という事実を突きつけられる形で往路を6位で終えます。

しかし、続く復路では王者の走りを見せます。6区小野田は前が見えない追う立場(加えて山下りで健闘した法政・坪井がずっとついてくる落ち着けない展開)の状況ながら自分の走りをしっかり続け区間記録を更新する最高の復路スタートを見せます。
続く7区林は区間新記録デビューをした前回の走りを完璧に再現し、前の東洋・東海を猛追します。そして8区は今回の収穫となった飯田。1年生での箱根デビューながら、後半まで8区を主戦場にしたOB・下田に匹敵するペースで走り続けます。さすがに終盤は失速したものの想定以上の箱根デビューとなりました。
そして9区も実力を如何なく発揮し区間賞を獲得。3大駅伝ですべて区間賞という次期エースにふさわしい駅伝デビュー年となり、チームは失速した東洋を捉え2位に浮上します。
アンカーは戦略的な位置付けにいた鈴木。こちらも前半から攻めの走りを見せますが逃げる郡司(東海)もほぼ同じペースを展開し差は詰まらず。2位でのフィニッシュとなりました。

敗因は何かというのは意見が割れるので難しいところですが、育成と並行しながら優勝を続けるというのは年々難易度が上がります。5年目の挑戦でその限界が来たという事なのでしょう。
原監督が「うちは挑戦者になった」というように、追われる側の制約から放たれたチームは、また新しい挑戦を取り入れて強くなっていく事でしょう。

<来季に向けて>
挑戦者にまわった来季、新体制での挑戦ですが課題は多そうです。
まず今年は常勝軍団になって以降で最多の5人の4年生を起用。来年に残せる経験値が減った分のやりくりには苦労するかもしれません。そして山登り5区はまだ攻略法を確立したとはいえず、花の2区・山下り6区は新たな選手を充てる事になります。
一方、吉田圭や飯田が素晴らしい箱根デビューを飾り、岩見も経験を積むなど明るい材料もあります。来季は鈴木がチームの柱となる事が期待されますし、吉田祐は復調して最後の年での最高の箱根デビューが期待されます。
箱根未経験ではあるものの力のある選手は多く控えており、来季の新しい挑戦も期待させてくれるでしょう。



【東洋大学】

 総合:3位  10時間58分03秒

往路:1位→2位→2位→1位→1位
復路:1位→1位→2位→2位→3位

【選手個人記録】

東洋_往路
東洋_復路

<大会内容>

流れを作る前半戦を重視した区間エントリーで、前半で稼ぎ後半逃げ切る作戦を敢行。見事往路優勝を獲得し終始3位以内をキープしましたが、終盤で選手層の薄さが見えてしまいライバルの東海・青山学院の後塵を拝す形になってしまいました。

1区西山は2年連続の区間賞で最高のスタートを切ります。そしてWエースの1人・山本を投入した2区では、山本が留学生や塩尻(順天堂)に続く走りを見せ先頭集団をキープします。
3区吉川も健闘。青学のエース・森田や3区でブレイクしたゴールデンルーキーには遅れたものの、区間4位の走りで青山学院を捉える位置でもう1人のエース・相澤に繋ぎます。
4区相澤はその実力を如何なく発揮。区間記録を更新する走りは区間2位以下を2分近く離す圧倒的なものでした。そして5区は2度目の5区となる田中。良好な天候も助けとなり去年の記録を1分以上縮めて逃げ切り、往路優勝のテープを切りました。

そして逃げの展開に入る復路のスタート。まず6区今西も成長した走りを見せ区間記録に近いタイムをマーク。3強の中では不利だった6区でもしっかりリードを守ります。
7区は経験豊富な小笹。後ろからは2区経験者の阪口(東海)、区間記録保持者の林(青山学院)が猛追するプレッシャーの中でしたがなんとかその2人に次ぐ区間3位の走りでリードを削られながらも逃げていきます。
8区は期待の1年生鈴木。箱根デビューとしては非常に健闘した区間3位の走りでしたが、追う小松(東海)が区間新記録の走りをした事で首位を明け渡す悔しい経験となりました。
ただ終盤は今回のチームの限界を見せる内容に。9区中村は最後の年での箱根デビューでしたが本来の走りを出来ず区間19位。10区大澤も区間10位と優勝を狙うチームとしては凡走と言わざるを得ない内容でした。この間に青山学院に抜かれそれを追いかける流れも作れませんでした。
前回箱根で健闘した渡邊、全日本で出走した田上、浅井などが欠場した中で全員が穴とならずに無難に走る難しさを感じさせる大会となりました。

<来季に向けて>

来年はチーム力を維持しながら再び優勝を狙う展開となります。
まず2区で稼いだ山本の後釜は相澤が担いますが、やはり優勝を目指すうえではWエースの形が取れないと苦しいところです。今回健闘した1区西山、3区吉川、8区鈴木といった中からそのクラスまで成長する選手が出る事を期待したいところです。
山の5区・6区が続投できる点は大きいです。ただ6区の候補選手を増やし、地力がある今西を平地にコンバートして選択肢を増やせるようになるとさらに優勝も近付くかもしれません。
そして今季優勝を逃す要因となったあと一歩の総合力。豊富な選手層はありますので、いかに10枠の当落線上の選手を充実させるかという難しい課題に挑む事となります。