激戦の箱根駅伝2019の総括を続けていきます。
今回は、3強には及ばないながらもシード争いから抜け出し上位を伺う位置まで上り詰めた4つのチームの総括です。

【補足】
今回総合10位の中央学院大学の総合タイムが各区間11位の合計タイムと各区間12位の合計タイムの間だったので、選手の評価基準として各区間11位のタイムを採用しています。



【駒澤大学】

 総合:4位  11時間01分05秒

往路:7位→7位→3位→4位→4位
復路:3位→4位→4位→4位→4位

【選手個人記録】

駒澤_往路
駒澤_復路

<大会内容>

箱根予選会からスタートした常勝軍団復活への挑戦は、抜群の安定感を見せて4位という上々な結果となりました。
エース・主力の爆発力が足りず3強の一角を崩すところに至らなかった点は、ここから次のステップへ向かうための課題となるでしょう。

1区のエース・片西の幸先のいい入りは非常に大きかったです。首位争いの流れに加わって僅差での区間7位という内容は、ここ数年続いたエースの悪いジンクスを断ち切るものでした。
続く2区山下は、去年の同区間から約1分50秒タイムを縮める成長ぶりを見せ、湯澤(東海)と僅差の区間9位で難しい区間の中良い流れを続けます。
そして大事な3区では中村大聖が奮闘。3区を盛り上げたエースやゴールデンルーキーらに続く区間5位で勢いを維持し、チームを上位に押し上げていきます。
4区加藤はやや守勢にまわったものの、区間中位で粘って勢いを崩さずに山へ繋げます。そして5区伊東は見事に山登りをものにする走りを見せます。区間新記録のタイムを出したトップ3に次ぐ位置で着実にリードを稼ぎ最後は國學院と同時に3位で往路を終えます。

6区中村大成も始めてながら上々の山下りデビュー。58分台目前のタイムで駒澤に山の安定感を取り戻させました。
続く7区の2年生小島も小笹(東洋)と僅差の区間4位。来年以降の更なる成長を期待させます。
ここからは8区伊勢、9区堀合、10区下の4年生で勝負。10区下はやや勢いがなかったものの4位の位置を盤石にしました。ただ、目標とした3強に対しては差を詰めていくための爆発力に欠けそのタイム差は埋められませんでした。
全員が区間中位以上(区間中位に留まったのもわずか2人)と上位を伺うための高い安定感を発揮できましたが、区間賞を狙える爆発力のあるランナーを用意するところに至らなかったのは惜しかったところです。
ただ、3強に比べ正攻法な(1区・2区にエース級を配置)オーダーではあったので、選手層に余裕が出来ればオーダーの工夫で攻める手もあるかもしれません。

<来季に向けて>

片西、伊勢など予選会でもチームを引っ張ったランナーが卒業するため、それに続く山下、中村大聖、小島らの成長は必須です。トップ3を狙うためには区間賞を狙えるエース、1区で最後まで先頭争いが出来るランナーが必要となってきます。
一方、今回の収穫として山登り・山下りのランナーを確保できたのは大きいです。さらにここの選手層を増やせれば、平地へのコンバートなど戦略の幅も広がります。
今回箱根デビューとならなかった小原、神戸などの成長にも期待です。



【帝京大学】

 総合:5位  11時間03分10秒

往路:11位→14位→6位→5位→9位
復路:7位→7位→7位→7位→5位

【選手個人記録】

帝京_往路
帝京_復路

<大会内容>

実力的に苦戦が予想される区間は粘って凌ぎつつ、勝負できる箇所でしっかり稼ぐ。そんな中堅チームのプランがしっかり機能した上に、若手のブレイクという収穫も加わって3強や駒澤には及ばなかったものの総合5位という好成績をおさめました。

序盤はやはり苦戦を強いられる区間となりましたがそこを1区竹下、2区畔上が粘り切れたのは大きかったです。竹下は最後のスパートこそ遅れたものの終盤まで先頭集団に位置しましたし、畔上はギリギリ区間中位のゾーンで踏みとどまりました。
そしてそこからチームを押し上げたのが3区の1年生遠藤。全日本で見せた力強い走りを距離のある箱根でもしっかり再現し東洋や東海の選手を上回る区間3位の好走で順位を14位から6位まで引き上げます。
そして4区は6区からコンバートした横井。スピード・スタミナを兼ね備えた地力を見せつける走りで区間3位となりさらに勢いをつけます。
その後5区は若い小野寺が山登りに苦戦した事もあり勢いを落してしまいますが、続いて始まった復路で6区島貫がその遅れを取り戻す区間5位の快走で再び勢いを増し増す。
そこからは7区岩佐、8区鳥飼が区間中位のペースで堅実な走りを見せ、少しずつ着実にシード権争いのリードを広げていきます。
そして終盤に一気に加速をつけたのが9区小森と10区星。小森は青山学院、東海に続く区間3位、星はなんと区間賞デビューという素晴らしい走りで一気に法政、國學院を一気に抜き去って5位フィニッシュを飾りました。
苦しんだ区間のフォローやシード権争いのリード稼ぎを2~3年生がこなしたというのは、来年に向けて非常に大きな収穫となりました。

<来季に向けて>

今回出走した4年生は3人と少なめではありますが、序盤の主要区間を凌ぐ役や往路でリードを稼ぐ役といった重要な位置を占めています。今回平地での稼ぎ役となった遠藤、小森、星などがその役を担えるよう成長するのが望ましいでしょう。
また7区を走った岩佐や今回は出走できなかった平田(過去2回箱根出走)の様な箱根の経験値が多い選手が、苦しい時のフォロー役になれると更なるステップアップが狙えます。
今回出走しなかったメンバーの中でも谷村や吉野などスピード・スタミナ両面に優れた選手がいるので、更なる総合力の向上も期待できます。



【法政大学】

 総合:6位  11時間03分57秒

往路:5位→11位→13位→12位→5位
復路:6位→5位→5位→5位→6位

【選手個人記録】

法政_往路
法政_復路

<大会内容>

前回と同様に山の強みを活かしたプランがしっかりと機能して、見事前年と同じく総合6位の成績をおさめ安定した速さを発揮できました。

前回と同様警戒したのが、往路の平地区間。今回そこを支えたのが1区佐藤でした。戦略的な理由もありこれまでの主戦場の山下り6区から1区にコンバート。その1区では持ち前のスピードを武器に最後まで先頭グループにつき区間5位。前回は出来なかった1区での流れ作りを見事に果たしました。
そのリードを活かし2~4区は守勢の中で粘ります。2区のエース坂東は前回の2区から1分上位タイムを縮め、区間中位とも僅かなタイム差で3区に繋ぎます。3区岡原は往路の速さに押され守勢となりましたが、ギリギリのところで粘って区間14位。続く4区狩野は初の箱根ながら全日本での走りも活かして区間10位となりチームを踏みとどまらせて期待の5区に繋ぎます。
そして勝負の5区青木は申し分のない内容。前回よりも1つ上の13位からスタートすると、前回の自身の区間記録を上回りながらごぼう抜きを演じます。山で苦戦していた3強の一角の青山学院も抜いてチームを往路5位にまで押し上げます。青木は惜しくも区間賞は逃しましたが、区間新記録相当のタイムで区間3位となりました。
そして翌日の往路でも嬉しい収穫から始まります。佐藤に代わり山下り6区を任された坪井がなんとその佐藤の記録を上回るペースで快走。区間新記録を出した小野田(青山学院)に後半までついていき、最後は前回の佐藤の記録を20秒近く上回るタイムで区間4位。山に強い法政と言える素晴らしい走りを見せました。
そこからは7区土井、9区大畑、10区鈴木と4年生中心の布陣。7区土井の区間5位を筆頭にいずれも区間1桁順位の安定した走りでリードをしっかり維持してシード権争いをリードします。
その中に混じって8区を走ったのが期待の1年生鎌田。青山学院や東洋のスーパールーキーには及びませんでしたが、それでも区間7位の走りで上々の箱根デビューとなりました。来年以降も楽しみです。

山下りの6区の後継者をしっかりと育てて、佐藤を戦略的に起用できたのはチームとしても大きかったです。同様に5区の青木の後継者もうまく育てて山のノウハウをかためていければ、「山の法政」を名乗れる日が来るかもしれません。

<来季に向けて>

山が安定した一方で、来季は平地の戦いにおける課題が多いです。今回起用した4年生5人は全て平地の担当で、中でも大きな課題となるのがエース・坂東の後釜でしょう。高いスピードとスタミナを兼ね備えた坂東並みのタレントを育てなければ序盤で大きなブレーキがかかる事になります。
有力な候補というと1区を走った佐藤が挙がります。元々スピードは坂東以上の選手ですがスタミナ面に不安があるためそこを強化することになるでしょう。そしてその場合の新たな1区候補は、3区を走った岡原や今回は未出走の増田などがさらにスピードを磨いて候補となっていきたいところです。
今回未出走のメンバーにも高いスタミナを持った選手が揃っているので、各々の成長でチーム全体の底上げをしっかりしてチーム力の維持を目指していきます。



【國學院大学】

 総合:7位  11時間05分32秒

往路:10位→6位→5位→6位→3位
復路:4位→6位→6位→6位→7位


【選手個人記録】

國學院_往路
國學院_復路

<大会内容>
まずは往路勝負という形で往路にエース・主力を集中させ、更にエース・浦野を山登り5区に起用する大勝負を含めた区間オーダーで挑みました。そしてそれが大当たりとなり、往路3位、総合7位という大学記録となる好成績をおさめました。

1区はゴールデンルーキーと呼べる高い期待を背負った藤木。高いスタミナを武器に終盤まで先頭グループにつけ、スパートでは第2グループとなるもトップと22秒差の区間10位で2区に繋げます。続く2区土方はまさにエースと呼べる力強い走りで國學院記録を打ち立てるタイム。東海や青山学院のランナーも上回る区間7位でリードを稼ぎます。
そして、3区青木も大学記録となる快走。西川(東海)と僅差のタイムで区間6位につけチームに勢いを加えます。4区は茂原。3本柱ほどではないため守勢にまわりましたが、スタミナを武器に粘りを見せ失速することなく区間中位に喰らいつきながら5区浦野に繋ぎます。
大勝負となった浦野は、そのまま山登りの主役となります。持ち前のスピードとスタミナに加え山登りのコツを会得した浦野は、区間トップのペースで箱根の山を駆け上ります。後半もその勢いは衰えることなく、3人を抜いた浦野は区間新記録で区間賞を獲得しました。
3位となった往路は3本柱が担当した2区、3区、5区でいずれも大学記録を樹立しました。

エース・主力を投入した後の復路は、チームの総合力を駆使して粘りの勝負となります。
箱根デビューは多いながらもしっかりとした実力を持つ4年生と経験を積ませたい期待の1年生・殿地を送り出した復路。なかなか攻めの展開には持ち込めませんでしたが、悪くても区間中位と20~30秒差程度に抑えて5位の法政の後についていきながらしっかりと往路のリードを維持します。終盤にスパートをかけた帝京に抜かれながらも総合7位でフィニッシュ。これまでを思えば大成功と言える大会となりました。

<来季に向けて>

まず来季取り組むのは全体の底上げです。今回復路で4年生が担当した仕事をしっかりこなせる選手を育てていくことは急務でしょう。
そしてそれと並行して3本柱が卒業した後のチーム作りも意識する必要があります。次期エースとなれる逸材の藤木、落ち着いた箱根デビューを飾った殿地、今回は未出頭ですが地力のある臼井といった1~2年生の選手の更なる成長に期待したいところでしょう。