大会・記録会が開催されない期間のための短期特集として、箱根駅伝と箱根駅伝予選会のLAPタイムを集計して様々な角度でご紹介する事にしました。
今回は箱根駅伝パートの第1回として、第92~96回の1区のLAPタイムに着目していきます。
(正確な意味でのLAPタイムとは違ってきますが、便宜上このシリーズではLAPタイムを表現させていただきます。)
このシリーズの概要について → こちら
<1区>【大手町~蒲田~鶴見中継所 21.3km】
01. 都心部のエリアを走る区間という事もあり、細かいアップダウンはあるものの走りやすいスピード区間です。17.6km地点の六郷橋あたりからは、ロングスパートを仕掛けるタイミングを図る終盤の勝負ポイントとなります。
区間記録は、83回大会の佐藤悠基選手(東海大学)の61分06秒。佐藤選手は開始直後に集団から飛び出し1区のほとんどを単独走で走るという1区のセオリーを破る戦い方でこのタイムをマーク。1区の歴代トップ10に6名がランクインした96回大会でもこの記録は破られなかったところからも、佐藤選手の走りが群を抜いている事が伺えます。
02. 長い戦いの序盤戦という事で、集団走でのレースとなります。しかしひとたびその集団から遅れると、立て直しの難しい単独走を強いられジワジワと差を広げられます。1区の前半戦で集団から遅れるとシード権争いが難しくなるタイム差となる危険もあり、とにかく集団についていく事が1区のランナーの最優先事項となります。
その先頭集団のペースは、集団の前についた選手が主導権を握る形となり(強豪チームの選手が多い)、積極的に勝負を仕掛けたい選手がどれだけいるかで「ライバルの振り落しを狙う高速レース」(92回、96回のケース)か「終盤のラストスパートに照準を合わせた比較的スローなレース」(93~95回のケース)に分かれていきます。高速レースではエースに近い実力でないと集団から遅れる危険があり、スローなレースならリードを稼げる箇所が少なくなり所謂「エースの無駄遣い」が発生する危険があるなど、それぞれにデメリットがあります。そのため、強豪チームは区間オーダー発表の段階から1区のレース展開を巡って駆け引きを繰り広げています。
03. 1区は全区間の中でも特にトラックレースの速さが求められる区間の1つです。高速レースになると10kmを28分台で走るペースにもなるため、10000mのタイムが速くないと集団から遅れる可能性が上がります。もちろん全体を安定して走り切るためのスタミナも求められるため、選手層が薄いチームはエースか準エースの選手を起用することが多いです。
そして選手層の厚いチームは、様々な駆け引きのもと以下のような選択肢に分かれます。
・高速レースの展開を狙ってエース級の選手を起用する
・スローなレースを狙って3~4番手のトラックレースに強い選手を起用する(その場合はエースや準エースを、2区やその他の勝負どころに起用する)
・1~2年後を見越してトラックレースに強い若手の選手を起用する(1区のエキスパートにしたり、エースとなるための経験を積ませる)
ご覧のように、1区は全区間の中で最も駆け引き要素の強い選手起用になると言っても過言ではありません。最新の96回大会では高速レースにより優勝候補のチームが出遅れる展開となったため、この1区の駆け引きは今後さらに激しくなっていきそうです。
※シード:全区間の区間順位ごとのタイムを合計して総合10位のタイムに最も近いものを参考に算出したシード権獲得の基準タイム。
16年:区間12位 17年:区間11位 18年:区間11位
19年:区間12位 20年:区間10位
のタイムを元にエリアごとの基準タイムを出しています。
<ポイント>
01. スローなレース(93~95回)だと、このエリアで集団から遅れる選手は少数で、シード権争いの動きもまだ小さいです。それに対して蒲田までを43分台で走る高速レース(92、96回)だと、集団から遅れる選手も多いためシード権水準やLAP16位の選手ともすでに差が生まれてきます。
そして96回で顕著となった「箱根駅伝の高速化」の視点で見てみると、96回はシード権水準のタイムが既に43分台となっています。実際には1区の蒲田でそれより遅れながらも最終的にシード権を獲得したチームはいますが、それらのチームはいずれも2区以降で区間新記録をマークした選手がいます。つまりは、箱根駅伝のシード権は43分台のレースについてくか、そこから遅れても区間賞以上の走りで取り戻せるレベルの争いとなってきています。
<ポイント>
01. スローなレース(93~95回)では六郷橋周辺からの3km弱で勝負を決めるため、1位とシード権水準とのタイム差が高速レース(92、96回)よりも小さいです。
また「箱根駅伝の高速化」の視点では、このエリアはあまり大会ごとでの大きな差はありません。1区は蒲田までのレース展開に力を注ぐ部分が大きいのかもしれません。
そして個人的に注目したいのが92回大会の1位のタイムである17分24秒。これは久保田和真選手(青山学院大)の記録ですが、蒲田までを43分台で走った状態でも終盤に力を注いでいる93~95回より速いタイムを叩き出しています。総合タイムは直近5大会で4位(61分22秒)ではあるものの、近年で最も理想的なペース配分で1区を走った選手と言えるかもしれません。
<1区>
※タイムの横の順位は直近5大会分の全ランナー(107名)の中での順位
※タイムの横の順位は直近5大会分の全ランナー(107名)の中での順位
※タイムの横の順位は直近5大会分の全ランナー(107名)の中での順位
<LAPタイムで見る箱根駅伝>
6区 7区 8区 9区 10区
今回は箱根駅伝パートの第1回として、第92~96回の1区のLAPタイムに着目していきます。
(正確な意味でのLAPタイムとは違ってきますが、便宜上このシリーズではLAPタイムを表現させていただきます。)
このシリーズの概要について → こちら
【コースやレース展開の特徴】
<1区>【大手町~蒲田~鶴見中継所 21.3km】
01. 都心部のエリアを走る区間という事もあり、細かいアップダウンはあるものの走りやすいスピード区間です。17.6km地点の六郷橋あたりからは、ロングスパートを仕掛けるタイミングを図る終盤の勝負ポイントとなります。
区間記録は、83回大会の佐藤悠基選手(東海大学)の61分06秒。佐藤選手は開始直後に集団から飛び出し1区のほとんどを単独走で走るという1区のセオリーを破る戦い方でこのタイムをマーク。1区の歴代トップ10に6名がランクインした96回大会でもこの記録は破られなかったところからも、佐藤選手の走りが群を抜いている事が伺えます。
02. 長い戦いの序盤戦という事で、集団走でのレースとなります。しかしひとたびその集団から遅れると、立て直しの難しい単独走を強いられジワジワと差を広げられます。1区の前半戦で集団から遅れるとシード権争いが難しくなるタイム差となる危険もあり、とにかく集団についていく事が1区のランナーの最優先事項となります。
その先頭集団のペースは、集団の前についた選手が主導権を握る形となり(強豪チームの選手が多い)、積極的に勝負を仕掛けたい選手がどれだけいるかで「ライバルの振り落しを狙う高速レース」(92回、96回のケース)か「終盤のラストスパートに照準を合わせた比較的スローなレース」(93~95回のケース)に分かれていきます。高速レースではエースに近い実力でないと集団から遅れる危険があり、スローなレースならリードを稼げる箇所が少なくなり所謂「エースの無駄遣い」が発生する危険があるなど、それぞれにデメリットがあります。そのため、強豪チームは区間オーダー発表の段階から1区のレース展開を巡って駆け引きを繰り広げています。
03. 1区は全区間の中でも特にトラックレースの速さが求められる区間の1つです。高速レースになると10kmを28分台で走るペースにもなるため、10000mのタイムが速くないと集団から遅れる可能性が上がります。もちろん全体を安定して走り切るためのスタミナも求められるため、選手層が薄いチームはエースか準エースの選手を起用することが多いです。
そして選手層の厚いチームは、様々な駆け引きのもと以下のような選択肢に分かれます。
・高速レースの展開を狙ってエース級の選手を起用する
・スローなレースを狙って3~4番手のトラックレースに強い選手を起用する(その場合はエースや準エースを、2区やその他の勝負どころに起用する)
・1~2年後を見越してトラックレースに強い若手の選手を起用する(1区のエキスパートにしたり、エースとなるための経験を積ませる)
ご覧のように、1区は全区間の中で最も駆け引き要素の強い選手起用になると言っても過言ではありません。最新の96回大会では高速レースにより優勝候補のチームが出遅れる展開となったため、この1区の駆け引きは今後さらに激しくなっていきそうです。
【エリアごとの大会別LAPタイム】
※シード:全区間の区間順位ごとのタイムを合計して総合10位のタイムに最も近いものを参考に算出したシード権獲得の基準タイム。
16年:区間12位 17年:区間11位 18年:区間11位
19年:区間12位 20年:区間10位
のタイムを元にエリアごとの基準タイムを出しています。
<1区> START~蒲田(15.2km) | |||||
92回 |
93回 |
94回 |
95回 |
96回 |
|
1位 |
43分58秒 |
46分07秒 |
44分46秒 |
45分06秒 |
43分41秒 |
5位 |
43分58秒 |
46分07秒 |
44分46秒 |
45分06秒 |
43分41秒 |
シード | 44分25秒 |
46分07秒 |
44分46秒 |
45分06秒 |
43分42秒 |
16位 |
44分30秒 |
46分07秒 |
44分46秒 |
45分06秒 |
44分39秒 |
最下位 |
45分43秒 |
47分28秒 |
45分45秒 |
48分24秒 |
46分06秒 |
<ポイント>
01. スローなレース(93~95回)だと、このエリアで集団から遅れる選手は少数で、シード権争いの動きもまだ小さいです。それに対して蒲田までを43分台で走る高速レース(92、96回)だと、集団から遅れる選手も多いためシード権水準やLAP16位の選手ともすでに差が生まれてきます。
そして96回で顕著となった「箱根駅伝の高速化」の視点で見てみると、96回はシード権水準のタイムが既に43分台となっています。実際には1区の蒲田でそれより遅れながらも最終的にシード権を獲得したチームはいますが、それらのチームはいずれも2区以降で区間新記録をマークした選手がいます。つまりは、箱根駅伝のシード権は43分台のレースについてくか、そこから遅れても区間賞以上の走りで取り戻せるレベルの争いとなってきています。
<1区> 蒲田~鶴見中継所(6.1km) | |||||
92回 | 93回 | 94回 | 95回 | 96回 | |
1位 | 17分24秒 | 17分49秒 | 17分30秒 | 17分29秒 | 17分32秒 |
5位 | 18分12秒 | 17分54秒 | 17分55秒 | 17分37秒 | 17分45秒 |
シード | 18分47秒 | 18分16秒 | 18分06秒 | 18分04秒 | 18分28秒 |
16位 | 19分00秒 | 18分44秒 | 18分30秒 | 18分49秒 | 18分53秒 |
最下位 | 19分37秒 | 21分14秒 | 19分05秒 | 22分51秒 | 19分43秒 |
<ポイント>
01. スローなレース(93~95回)では六郷橋周辺からの3km弱で勝負を決めるため、1位とシード権水準とのタイム差が高速レース(92、96回)よりも小さいです。
また「箱根駅伝の高速化」の視点では、このエリアはあまり大会ごとでの大きな差はありません。1区は蒲田までのレース展開に力を注ぐ部分が大きいのかもしれません。
そして個人的に注目したいのが92回大会の1位のタイムである17分24秒。これは久保田和真選手(青山学院大)の記録ですが、蒲田までを43分台で走った状態でも終盤に力を注いでいる93~95回より速いタイムを叩き出しています。総合タイムは直近5大会で4位(61分22秒)ではあるものの、近年で最も理想的なペース配分で1区を走った選手と言えるかもしれません。
【大学ごとの直近5大会のエリア最速LAPタイム】
<1区>
※タイムの横の順位は直近5大会分の全ランナー(107名)の中での順位
大学名 |
START~蒲田(15.2km) |
蒲田~鶴見(6.1km) |
青山学院 |
20年・𠮷田圭太 43分41秒(1位) |
16年・久保田和真 17分24秒(1位) |
東海 |
20年・鬼塚翔太 43分41秒(1位) |
19年・鬼塚翔太 17分37秒(8位) |
國學院 |
20年・藤木宏太 43分41秒(1位) |
20年・藤木宏太 17分37秒(8位) |
帝京 |
20年・小野寺悠 43分41秒(1位) |
20年・小野寺悠 17分51秒(1位) |
東京国際 |
20年・丹所健 44分03秒(25位) |
19年・モグス 17分44秒(14位) |
明治 |
20年・小袖英人 43分41秒(1位) |
16年・横手健 17分46秒(17位) |
早稲田 |
20年・中谷雄飛 43分41秒(1位) |
19年・中谷雄飛 17分36秒(7位) |
駒澤 |
20年・中村大聖 43分42秒(10位) |
19年・片西景 17分38秒(11位) |
創価 |
20年・米満玲 43分41秒(1位) |
20年・米満玲 17分32秒(5位) |
東洋 |
16年・上村和生 43分58秒(11位) |
19年・西山和弥 17分29秒(2位) |
大学名 |
START~蒲田(15.2km) |
蒲田~鶴見(6.1km) |
中央学院 |
20年・栗原啓吾 43分41秒(1位) |
20年・栗原啓吾 17分45秒(16位) |
中央 |
16年・町澤大雅 43分58秒(11位) |
19年・中山顕 17分30秒(3位) |
拓殖 |
16年・金森寛人 43分58秒(11位) |
16年・金森寛人 18分02秒(33位) |
順天堂 |
16年・西澤卓弥 44分30秒(30位) |
18年・栃木渡 18分06秒(40位) |
法政 |
18年・土井大輔 44分46秒(35位) |
19年・佐藤敏也 17分37秒(8位) |
神奈川 |
16年・我那覇和真 43分58秒(11位) |
17年・山藤篤司 17分54秒(28位) |
日本体育 |
20年・池田耀平 43分41秒(1位) |
20年・池田耀平 17分40秒(12位) |
日本 |
16年・荻野眞乃介 43分58秒(11位) |
16年・荻野眞乃介 18分35秒(69位) |
国士舘 |
18年・住吉秀昭 44分46秒(35位) |
19年・住吉秀昭 17分38秒(19位) |
筑波 |
20年・西研人 43分58秒(11位) |
20年・西研人 18分48秒(78位) |
関東学連 |
16年・山口修平(創価) 43分58秒(11位) |
16年・山口修平(創価) 18分17秒(54位) |
※タイムの横の順位は直近5大会分の全ランナー(107名)の中での順位
大学名 |
START~蒲田(15.2km) |
蒲田~鶴見(6.1km) |
上武 |
18年・坂本佳太 44分46秒(35位) |
18年・坂本佳太 18分05秒(38位) |
城西 |
16年・西岡喬介 44分30秒(30位) |
18年・西嶋雄伸 18分32秒(66位) |
山梨学院 |
16年・佐藤孝哉 43分58秒(11位) |
18年・永戸聖 18分30秒(63位) |
大東文化 |
18年・新井康平 44分46秒(35位) |
18年・新井康平 18分26秒(59位) |
大学駅伝 2020 春号 [別冊付録:特大ポスター] (陸上競技マガジン6月号増刊) |
陸上競技ルールブック 2020年度版 |
あまりに細かすぎる箱根駅伝ロスの過ごし方!2020マラソン&駅伝ガイド (ぴあ MOOK) |
<LAPタイムで見る箱根駅伝>
6区 7区 8区 9区 10区
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